投資情報でよく見かける「ROE」と「ROA」。どちらも「会社がどれだけ効率よく稼いでいるか」を測る指標ですが、違いを説明できる人は意外と少ないもの。そして実は、ROEには財務三表シリーズで繰り返してきた「化粧」の問題がここにも潜んでいます。今回も経理の現場感覚で、2つの指標を整理します。
ROE: 株主のお金で、どれだけ稼いだか
ROE(自己資本利益率)= 当期純利益 ÷ 自己資本
株主から預かったお金(と過去の利益の蓄積)を元手に、1年でどれだけ利益を生んだかを示します。あなたが100万円を出資した会社が年10万円の利益を出せばROE 10%。投資家にとっての「利回り」に一番近い指標で、東証が上場企業に「ROE 8%以上」を求めてきたこともあり、近年もっとも注目される経営指標です。
- 目安: 8〜10%以上なら合格ライン、15%超は優秀
ROA: 会社の全財産で、どれだけ稼いだか
ROA(総資産利益率)= 当期純利益 ÷ 総資産
こちらは借入も含めた「会社が使える全部の資産」に対する利益率。借りたお金も自分のお金も区別せず、事業そのものの稼ぐ力を測ります。
- 目安: 5%以上なら優良(資産を大量に使う製造業・インフラは低め、IT・サービスは高めに出ます)
2つの違いの正体は「借金(レバレッジ)」
ここが今回の核心です。ROEとROAの差を生むのは借入です。
- 借入を増やすと、自己資本はそのままで事業規模を大きくできる → 利益が増えればROEは跳ね上がる
- つまり、ROEは借金を増やすだけで“化粧”できるのです
例えば、ROE 15%の会社が2社あったとします。A社は無借金でROE 15%、B社は自己資本比率10%の借金経営でROE 15%。数字は同じでも中身はまったく別物で、B社は金利上昇や不況が直撃します。貸借対照表編で見た自己資本比率と必ずセットで見てください。
実際、経営の現場でもROEの存在感はこの10年で大きく変わりました。2014年に経済産業省の「伊藤レポート」がROE 8%という水準を打ち出し、コーポレートガバナンス改革が進んでからは、経営者はしきりにROEの向上を目指すようになりました。投資家だけでなく経営者の物差しにもなっている——これがROEを見るべきもうひとつの理由です。
レバレッジの「普通」は業種でまるで違う
もうひとつ、「レバレッジが大きい=悪」と短絡しないことも大切です。財務レバレッジ(総資産÷自己資本)の平均は、業種によってこれだけ違います。
| 業種 | 財務レバレッジ |
|---|---|
| 学術研究、専門・技術サービス業 | 1.52 |
| 情報通信業 | 1.80 |
| 製造業 | 2.01 |
| 建設業 | 2.10 |
| 小売業 | 2.78 |
| 宿泊業、飲食サービス業 | 6.25 |
| 全業種平均 | 2.25 |
出典: 中小企業庁「中小企業実態基本調査(令和6年確報・令和5年度決算実績)」より抜粋(中小企業の平均値)
設備や店舗への投資が必要な業界はレバレッジが大きくなる傾向があり、コンサルティングのように大きな借入を必要としない業界は小さめ。さらに、建設業の負債には借入だけでなく前受金(工事代金の先受け)が含まれるなど、負債の中身も業種によって異なります。「高いからダメ」と一概には言えない——だからこそ、比較は必ず同業他社と、が鉄則なのです。
だから「ROE × ROA」のセットで見る
| パターン | ROE | ROA | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 理想型 | 高い | 高い | 事業自体が強い。本物の高収益企業 |
| レバレッジ型 | 高い | 低い | 借金で膨らませたROE。財務リスクを確認 |
| 堅実型 | ほどほど | 高い | 無借金経営など。財務は安全、資本効率には改善余地 |
| 要注意型 | 低い | 低い | 稼ぐ力そのものが弱い |
ROAが高くてROEも高い会社が本物。ROEだけ高い会社は、貸借対照表で借入の中身を確認する——これで指標の「化粧」に騙されなくなります。
私自身が指標を見るときに徹底しているのは、単年の数字で判断しないことです。営業利益の見方でお伝えしたのと同じで、ROEもROAも3年程度のトレンドで、そして同業他社と比べて初めて意味を持ちます。1年だけ高いROEは、たまたまかもしれないのです。
純利益ベースであることに注意
最後に細かいけれど大事な点をひとつ。ROEもROAも当期純利益で計算されます。損益計算書編でお伝えした通り、純利益は一時的な特別損益で大きくブレる数字。資産売却益でROEが跳ね上がった会社を「高収益企業」と見誤らないよう、営業利益ベースの収益力と合わせて確認してください。
チェックリスト
- ROEは8%以上あるか、それは借金による「化粧」ではないか(ROA・自己資本比率とセットで)
- ROAは5%以上あるか、同業他社と比べてどうか
- 純利益に一時要因が混ざっていないか(営業利益ベースでも確認)
まとめ
- ROEは株主のお金に対する利回り、ROAは全財産に対する稼ぐ力
- 2つの差は借金。ROEは借金で化粧できるが、ROAは化粧しにくい
- ROE×ROA×自己資本比率のセットで見れば、本物の高収益企業が見分けられる
※ 当記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。


コメント